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風に揺れる -後-

 
 ラストです。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







 
マンションに帰ると琴子は直樹に買って貰った包みを早速開ける。
 琴子が買って貰ったのは風鈴だった。
 水色のグラデーションに金魚が泳いでいる、至って普通のデザインの風鈴。
 あの洋風な雑貨屋で少々この和風柄な風鈴は浮いていた気がする。

 琴子は窓際へ行くとカーテンレールの端に取り付けようと背伸びをした。
 つま先立ちになって身体が安定しない。
 ふらふらしながら格闘すること5分、ベッドに座って見守っていた直樹があまりの手こずりようにしびれを切らし「貸せっ!!」と、風鈴を手にした。



 「しかし、なんでまた風鈴なんか選んだんだか。」


 夏の風物詩ではあるが、あの雑貨店には琴子が好きそうなものが他にも沢山あった。
 なのに敢えてこれを選んだ理由が直樹には分からなかった。


 「えー?日本の夏って感じじゃない?それに風鈴の音聞くと涼しげっていうか・・・日中クーラーとか付けなくても過ごせそうかなって思って。」

 「・・・は?どういう意味だ?」


 直樹は付け終わると振り返り、眉間に皺を寄せた。


 「ん・・・。あのね。入江くんとこうやって一緒に居られるのはすっごく嬉しいの。だけどね、あたしがずっとここに居るといろいろ掛かるじゃない、その・・・生活費とか。
 研修医って仕事がハードな割にお給料が少ないって聞くし、あたしがここに居ることで一生懸命働いた入江くんのお金が減っちゃうのって申し訳がないっていうか・・・。
 バイトであたしも協力できたらいいんだけど、今のあたしにはそんな余裕もなくって。もしかして、風鈴買ってこの涼しげな音を聞いたらクーラー無しでも大丈夫かなって思ったの。
 ほら、ここの部屋って意外と良い風が入るし。」 


 琴子が話しながら窓を開けるのと同時にふわりとカーテンが揺れ、付けたばかりの風鈴もチリン・・・と音を立てる。


 「そんなこと。給料で足りなかったらコトリンで入ったお金がある。」

 「ううん。それも入江くんが寝る間も惜しんで働いた大切な入江くんのお金だもん。そんな大切なお金、簡単に使えない。」

 「・・・。」

 
 琴子がそんな風に考えていたなんて。
 直樹はただただ驚くばかりだった。
 大学時代にバイトをしながら一人暮らしをした経験はあっても、やっぱり生まれてから裕福な家庭で育ってきた直樹には理解が出来ないのかもしれない。
 お金持ちであることを鼻に掛けたりする事はないけれど、ここは金銭感覚の違いだろうと琴子は勝手に思ったが、直樹はそうではなかったらしい。
 直樹はさっきよりも更に眉間の皺を深く刻むと固い声で琴子を呼んだ。
 

 「お前っておれのなに?」
  
 「え?」

 「だから、おれと琴子はどんな関係だって聞いてんだ。ただの同居人か?」

 「ううん。今は・・・入江くんの奥さん。」

 「・・・だよな。確かに研修医は忙しい割に収入はあまりないけど、おまえ一人増えて生活難に陥るほどじゃねぇよ。それにそんな余計な心配してこれからここでの勉強に身が入らないとか言うのは止めてくれよ。そんな状態になるんなら神戸に居ない方が良い。」

 「そ、そんなっ! ヒドイよ入江くん。あたしだって、あたしなりに心配して・・・」


 大きな目からぽろっと涙がこぼれる。
 直樹を気遣ったつもりが逆に気分を害してしまった。
 琴子には直樹がそんな態度をとる理由が分からない。

 何も言わずただ涙を流す琴子をベッドに座らせると直樹はさっき買ってきた大きな包みを琴子に差し出した。


 「ほら、開けてみろよ。」

 「・・・う・・・ん。」


 綺麗にラッピングされている包みを開けると中には食器類が入っていた。
 お茶碗、お椀、箸、お皿、マグ、グラスがそれぞれ二つずつ。
 しかも水色とピンクの色違いでお揃いだった。


 「い・・・りぇく・・・これ・・・。」

 
 琴子は直樹を窺う。
 直樹はさっきの不機嫌さを隠し琴子の髪を優しく梳いた。


 「珍しいって思ってるだろ?」

 「う、うん。」

 「だよな・・・。おれもこういうの買う事ってないと思ってたんだけどな。なんかあの店の前通る度にコレが気になっててさ。気づいてたらあの店に入ってた。」


 直樹は箱の中から水色のグラスを手に取った。そのグラスはアイスクラックされていて光にかざすとひび模様がキラキラと輝く。琴子もピンクのグラスを手に取ると直樹のように光にかざした。

 
 「きれい・・・。」


 琴子は思わず呟いてしまう。


 「嬉しかったよ。」

 「・・・え?」

 「琴子がここに居ることが。」

 
 琴子はグラスから目を外し直樹を見つめる。
 けれど、直樹はグラスばかり見ていて琴子と目が合うことはないのだが。


 「別に、同居が嫌だって言ってるんじゃないんだけどな。あそこにいれば、毎日賑やかで琴子は楽しいと思う。でも一度味わっても見たかったんだよな。2人暮らし。」


 2人暮らし――
 東京に居たら考えもしなかったかも知れない。
 同居から始まって何の違和感もなく今まで過ごしてきて直樹の言葉に「あっ」と気づく。


 「親父やおふくろ、お義父さんに甘えっぱなしだったんだよな。おれ達。お金の事はもちろん他の事でもさ。
 でも、ここはおれ達2人だけだろ?誰のサポートも無い中でおれ達は短いけど暮らすんだ。おれが稼いで、そのお金で遣り繰りしてさ、それが出来ることがなんつーか楽しみだったんだよ。」

 「入江くん・・・。」

 「そんな事考えてたら、この食器を見つけて。
 一ヶ月の事ならここにある物で過ごせるんだけど、こういうの使うのも悪くないなって思ったんだ。おまえ好きだろ?お揃い。」

 「うん・・・初めて・・・いりえくんと、おそろい・・・。」


 結婚指輪以外では。
 グラス以外の食器は直樹が選んだだけあって水色とピンクの線が入ったとてもシンプルな物だった。


 「クーラー付ける付けないは琴子の自由だけどな、おれの金ってなんだよ。おれ達ってそんなモンかよ。
 おれの事を考えてくれるのは有り難いけど、おれは琴子にそんな遠慮はして欲しくない。」

 「うん・・・言わない・・・いりぇくんと、いっしょに、がんばる。べんきょ・・・も。」

 「でも、おまえの一番の仕事は家事でも節約でもなく、受験勉強だ。そこを疎かにしたら東京に帰って貰うからな。」

 「うん。」

 「あと、勉強中はクーラーを絶対につけろよ。集中力が落ちる様なことはするな。」

 「うん。つける・・・。」

 「おい、もう泣くなよ・・・。」

 「うん・・・ごめんね、入江くん。」


 琴子は手の甲で涙を拭うと、ペアのグラスを手に取るとキッチンへ向かった。
 洗い立てのグラスに氷を入れてコーヒーを流し入れた。


 「はい、今朝作ったコーヒーを出掛け前に冷蔵庫で冷やしておいたの。汗だくで帰ってくると思って。」

 「サンキュ。」


 昨日久しぶりに口にした琴子のコーヒー。
 やっぱりホッと落ち着く。
 それが温かくても冷たくても。




 
 全開にしてある窓から少し離れた海からの風が届く。
 その風でカーテンが揺れる度に風鈴も踊る。


 「良い音色だな。」

 「ね、これだけでも涼しくなった気がするでしょう?」

 「暑いのには変わりない。」

 「んもう。風情がないなぁ、入江くんは。」


 直樹と琴子はクスクス笑い合った後、どちらからでもなくそっと唇を合わせた。
 

 「よろしくな奥さん。」

 「こちらこそよろしくね。旦那様。」

 「な、ここに居る間『直樹』って呼べば?」
 
 「はっ///恥ずかしくて呼べない。///」

 「んじゃ、おれも『入江さん』って呼ぼ。」

 「い、嫌っ! あたしは入江くんが呼ぶ『琴子』が好きなのっ」

 「・・・おれも琴子の『直樹』がいいんだけどな~。そうか~、言ってくれないのか~ああ残念だ。」

 「・・・い、入江くん、おもしろがってるでしょう?」

 「おれは心底本気だ。」




 「・・・なおき・・・。」



 「・・・ぶっ」

 「!!ひっひどい!!あたしが勇気を出して言ったのに笑うなんて~!!」


 「・・・笑ってないよ。」

 「笑ったもん!!もうっ入江くんなんか・・・っ」

 
 「・・・なんか何だよ。」




 「・・・スキ・・・。」

 「はいはいおれも好き好き。」

 「なんか軽い~!!」

 「我が儘な奴だな。」

 「だってだってだっ・・・っ」


 直樹は笑いたいのをお腹に飲み込むと、琴子にちゅっとキスを落とす。


 その時間は長かったのか短かったのかは分からないが、テーブルに置かれたグラスの氷がカランと音を立てる。
 そして、風に揺れるカーテンと共に風鈴も優しく鳴り続けた。

                                   
                                 《END》




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 このお話は「イタkiss納涼祭り」を企画してくださったソウさまのサイトの風鈴を見たときに、
 「風鈴のお話を書くんだっ」と思ったんです。けれど、思うだけでは何も書けず・・・。
 いろいろ考えていたら、神戸編と絡ませてみようと思いこのお話ができました。

 けれど、風鈴登場率ひくっ(汗)
 


 




 

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ありがとうございました。

可愛いお話、ありがとうございました。
神戸での話は二人っきりだから大好きなんです。
narackさんの直樹も甘くて素敵です。また素敵なお話待ってます。

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Re: Rinさま。

こんにちは~。
 
 キュンキュンありがとうございます。
 入江くんが入江くんらしくないですけれど、そんなふうに読んでいただけたなんてっ(*^_^*)
 とっても嬉しいです☆
 今後もRinさんがキュンっとするお話を書けたらと思います♪

Re: ぴくもんさま。

こんにちはっ♪
 
 大興奮のコメント有り難うございます!
 最初は夏と言えば風鈴っていう感じで簡単に考えていたんです。
 書くにあたって考えていたら、殺風景な部屋に琴子の存在感と1つの風鈴の音が頭に浮かんできたんです。
 神戸の暮らしは2人だけというちょっと特別な生活。
 琴子は直樹に会えるのは幸せだけれど、思いすぎていろいろ気遣っちゃったり。
 直樹は夫婦2人暮らしの生活に自分の力量を試してみたいなんて思っていないかな?と。
 直樹は普段冷たくても琴子のことを誰よりも大切に思っていますから。
 その第一歩的にあの生活感溢れる食器類を購入させてみました(*^_^*)

 あと、ぴくもんさんが倒れこんでくださった部分はすこーしだけ実体験入ってます(笑)
 
 うふふ♪ぴくもんさんの大好きリストに入って嬉しいです♪
 
 
 

Re: はじめさま。

こんにちは~。

 あらら、お忙しい中遊びに来てくださっていたんですね!!
 有り難うございますm(_ _)m

 窓から入る海風に揺れる風鈴を想像していただけただけで十分です~(^o^)
 
 はじめさんも猛暑がまだまだ続きますが、無理せずに頑張ってくださいね☆

Re: 杏子さま。

こんにちは~!

 そうなんですよね!
 神戸は2人暮らし!入江くんは相変わらずお仕事第一でしょうが神戸には東京の様に頼れる人もいませんから2人の絆や思いがたくさん詰まっていくんじゃないでしょうか(*^_^*)
 私が書く入江くんは基本甘めが多いのですが神戸では更に甘くなりそうです(^_^;)
 
 相変わらず難産ですが頑張りますね(^_-)☆
 有り難うございました~。

Re:miyacoさま。

こんにちは!

 2人暮らしが始まった神戸ではどんな生活が繰り広げられてくのでしょう(^_^)
 間違いなく野獣出没率は上がります(笑)
 北海道の「クマ出没注意」ステッカーのようなステッカーが要りますよ!
 「野獣出没注意!!(妻にのみ有効)」的な。
 でも今回のお話は王子も野獣もひっそり身を潜め(最後は少し野獣が出かかっているかもしれませんが(^_^;))とっても真面目なお話でした。
 
 風鈴の存在感は良い感じでした?
 合間にチリンとなるのが夏の風情と涼やかさがあるのでそれが伝わっていたのならば嬉しいです(*^_^*)

拍手お礼

紀子ママさま。

 こんにちは~!
 拍手コメント有り難うございました!
 今回はすこし真面目なお話でした。
 私も紀子ママさんの様に少し入江夫妻のお金について疑問があったりしました。
 琴子ちゃんの様な気持ちも入江くんの考えもとても大切な事だと思うんです。難しいですけど。
 入江くんが働いたから入江くんのお金ではなくて、共に支え合って生きてくのに大切な夫婦のお金です。
 入江くんにも神戸では家長になった自覚も芽生えていたらいいなとも思いました(^_^)
  
 普段なら絶対に入らない雑貨屋で食器を買う入江くんはどうかとも思ったんですが、買う行為に決意が表れていればいいななんて思いました(^_-)☆
  

拍手お礼。

ひろりんさま。

 こんにちは!
 拍手コメント有り難うございました。 
 このお話、少し真面目でした。
 東京では気づきにくいかも知れませんが、奥さんを貰って家長になった入江くんの密かな決意みたいなのを神戸で感じてくれたらいいなと思っていました。
 もちろん風鈴の雰囲気も出したかったですけど(^_^;)

 心優しい琴子ちゃんと、表には出ませんが誰よりも琴子ちゃんを大切にしている入江くんですから、きっと神戸の暮らしは幸せだったと思います(*^_^*)

拍手お礼。

藤夏さま。

 こんにちは~☆お忙しい中コメントありがとうございます~(*^_^*)
 東京では毎日怒りながらも賑やかに過ぎていく毎日。
 そんな日常もいいけれど、琴子ちゃんと2人だけの神戸はとても貴重な時間。
 そんな時間を楽しみにしているのは意外と入江くんの方ではないだろうか?と思ったら食器セット買ってました(笑)
 夫婦茶碗ですよ!!
 でも、東京で入江くんのお茶碗に頬ずりしてた琴子ちゃんにとってはとても嬉しいモノじゃないかなぁ・・・なんて(*^_^*)
 期間限定ではあるのですが入江家の家長として可愛い奥さんと生活してほしいですよね♪

拍手お礼

Foxさま。

 こんにちは!
 やりたい放題の王子はひっそりと身を隠し、琴子ちゃんとの歩む生活をきちんと考えている入江くんです。
 同居しているとはいえ、東京の生活費ってどうなっているんだろうと思ったとき、じゃあ神戸で2人だったら?って考えたら入江くんがササっと動いてくれました(*^_^*)
 こんな風に考えてくれていたと思うと琴子ちゃんは嬉しくて仕方がなかったでしょうね~♪
 風鈴もいい感じでしたか?ありがとうございます☆
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