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ナンダカンダ

高校時代のお話です。




3時限目が終わる頃、窓から甘ったるい匂いが飛んでくる。
 ちょうど小腹が空いてくる時間。
 きっとこの匂いを嗅げば誰もが空腹に追い打ちをかけられる筈。
 けれど、A組に属するただ一人の男は眉間に皺を寄せている。



 「入江く~ん。」

 「いらない。」


 いつか聞いた台詞である。
 直樹の冷たい一言に「何も言ってないじゃないっ」と頬を膨らませている。
 さっきから漂っている甘ったるい香り。
 そして、琴子が手にしているピンクの包みを見ればだいたいの想像がつく。


 「おれは甘いものがキライって言ってるだろ。」

 「だから、苦手な入江くんでも大丈夫なように作ってみたの!」

 「・・・塩とか入れてねぇよな。」

 「入れてませんっ!」


 どーだか。 と言わんばかりの直樹の視線に「大丈夫なはず・・・」なんてさっきより自信が下がってきている。
 直樹はというと、そんな琴子に呆れつつもニコニコとしながら渡してくるピンクの包みを仕方なく受け取った。
 
 その場でリボンをほどいて中を見る。


 「・・・ずいぶん分厚いクッキーだな。」

 「マドレーヌよっ!」


 可愛らしいカップに入っている食べ物。
 全く膨らんでいないし、表面は見事にカリカリ食感を味わえと言わんばかりの固さ。
 マドレーヌ特有の柔らかさはどこへ行ったのだろう。
 直樹は受け取ってしまった事に早々に後悔をした。

 
 「おまえ、もう一つは誰にやるんだ?」


 琴子の手には、マドレーヌの包みがもう一つある。

 
 「あ・・・これは、渡辺さんにと思って。」

 「はぁ!?」

 「だっていつもお世話になってるし。」

 「・・・遠くで手を合わせて拝んでる方がよっぽど渡辺に伝わると思うけど?」

 「なんでよっ」

 「渡辺はおれの大事な友達なんだよ。将来有望なあいつに、おまえの毒味なんてさせられないね。」

 「ヒドイっ」


 二人でぎゃあぎゃあ言い合っていると、トイレに行っていた渡辺が戻ってきた。
 琴子は渡辺を見つけると走り出し、マドレーヌの入った包みを渡した。


 「おまえは・・・どんだけ図々しい奴なんだよ。」


 直樹は琴子の後ろに立ち、ギロリと睨み見下ろしている。


 「まぁまぁ入江。お前が琴子ちゃんのを独り占めしたいのは分かるけど、今回は俺にもお裾分けってコトでね。」

 「渡辺。お前は眼鏡の度を合わせ直してこいよ・・・」


 直樹が妙に苛ついている理由がおかしくて堪らない渡辺はクスクスと笑いながら包みを開ける。


 「美味しそうじゃないか!このクッキー。」

 「・・・マドレーヌなの・・・。」

 「え゛!? そ・・・そうなの?」


 渡辺にまでクッキーと呼ばれた事に軽くショックを受けうなだれる琴子に直樹は ぶっ と吹き出した。
 そして、クッキーのようなマドレーヌを一つ取り出し、琴子に差し出した。


 「食えよ。」

 「えっなんで?」

 「お前の事だ。どうせ味見もしてないんだろ。」

 「だ、大丈夫よ。分量はみんなで量ったし、マズイ要素なんて一つも・・・むぐっ」


 直樹は琴子が言い終わる前に無理矢理それを口に放り込んだ。
 当然、一口では入りきらないので、こぼれないように食べかけのマドレーヌを手に取った。
 
 琴子が噛む度にサクッサクッと音がするマドレーヌ。


 「どうだ?ウマイか?」

 「お、美味しいわよ!歯ごたえがあって!」

 「・・・だから何でマドレーヌなのに歯ごたえがあるんだよっ」


 直樹は琴子の丸い額に びしっとデコピンをした。
 さっきから繰り広げられている夫婦ゲンカに渡辺は吹き出した。

 
 「おまえたち、ホンっとお似合いだよ。」

 「渡辺。眼科行ってきた方がいいぞ。」


 渡辺の一言に真っ赤になって嬉しそうな、恥ずかしそうな顔の女と呆れ顔で冷たい視線を寄越す男。
 何だかんだ言いつつも琴子の相手をしかまっている直樹が渡辺はおかしくて堪らないのである。



 
 キーンコーンカーンコーン・・・




 4時限目の本鈴がなる。
 A組とF組の教室は端と端。
 琴子は「お昼のおやつに食べてねーーーー!!!」と言い残し、ダッシュで教室へ戻っていった。

 直樹はというと、琴子が猛ダッシュでF組に戻り、無事に教室へ入って行くのをちゃんと見届けて小さな溜め息をついた。
 一緒に見届けていた渡辺が直樹の手にしている物に気づいた。


 「入江。」

 「なんだよ。」

 「それ・・・どうすんの?」


 渡辺は直樹が持っている『それ』を指さした。

 それは、さっき琴子に無理矢理食べさせたマドレーヌの食べかけ。
 食べかけだから袋に戻すわけにもいかない。
 ゴミ箱に捨てるのだろうか。
 渡辺は じぃっと直樹の反応を見た。


 すると―――





 パクッ




 「えっ!?」


 直樹は何の躊躇もなく琴子のマドレーヌを一口で自分の口に放り込んだ。
 琴子と同様、サクサク音を出している。


 「入江・・・それ・・・琴子ちゃんの・・・。」


 渡辺は動揺しながら直樹に話しかける。
 いくら同居しているからって食べかけの物も食べるのだろうか・・・。
 これって間接キスよりも・・・。


 「別に・・・琴子のくらい・・・どうって事ねぇよ。」


 これはやっぱりクッキーだな。 と呟きながら直樹は食べている。
 渡辺には「噛みごたえはあるが味に問題はないから安心しろ」などと言っている。

 何事もなかった様な顔で席に戻る直樹に渡辺は真面目に言った。


 「やっぱり入江と琴子ちゃんはお似合いだよ。」

 「・・・渡辺・・・次は脳外でも行って診てもらってこいよ。」

 「いいや。俺のカンは正しい。入江は将来、琴子ちゃんと結婚するさ。」


 直樹に向かってビシっと指をさし言い切る渡辺。
 何を思ってそう言い切る理由が直樹は分からない。


 「お前・・・何でそう言い切れるんだ?」

 「何でって・・・ さっきから見てれば誰だって分かるだろ?」

 「何がだよ。」

 「入江・・・おまえ・・・。」


 無自覚かよ・・・。
 渡辺は驚いた。
 何に対しても無反応だった直樹が唯一(仕方がないにせよ)構って面倒を見ているのは後にも先にも琴子だけである。
 その構い方だって、キスできそうな距離まで顔を近づけたり、髪を撫でたり、膨らませた頬をツンッとしたり、額にデコピンしたり・・・。
 どう考えてもバカップルのやることだ。

 好きだ好きだと言うばかりで直樹の変化に気づいていない琴子。
 迷惑そうにしつつも何故、琴子につきあってしまうのか、その本当の理由に全く気づいてもいない直樹。

  この二人をお似合いと言わずして何と言うのだろうか。

 お互いの気持ちに気づいた時、二人はどんな反応をするんだろう。
 きっと幸せを噛みしめてやまないんだろうな。
 それを想像すると、少し幸せになったような気がした渡辺だった。                



   
                                            《END》

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