スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

これは『初恋』と呼ぶものか。

今日は入江くんのお誕生日~♪

 HAPPY BIRTHDAY♪

 お祝い♪という感じのお話ではないかもしれませんがお誕生日に因んだお話です。




 タイトル通り『初恋』という自覚がまだない高校生の入江くんのお話。
 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 11月12日。

 今日はいつもと変わらない1日で終わるはずだった。













 「えぇ?!今夜おばさん達出掛けちゃうんですか?」


 と同時にコーヒー豆が入った容器の蓋がポンッと音を立てる。
 驚きを隠せない琴子は数秒そのまま硬直し紀子は構うことなく琴子のそばで忙しなく動き回っている。

 
 「そうなのよ~。今日は会社の大切な取引先の方との食事会でね、私も同席することになっているのよ。」


 だから今日はお兄ちゃんと2人でお留守番お願いね。
 と笑顔で頼まれて琴子はハッと我に返った。


 「え、でも今日って入江くんのお誕生日ですよね??お祝いパーティーとかしないんですか??」

 「今日は用事が入ってるから出来ないわねぇ。」


 そう、今日11月12日は入江家長男、直樹の18歳の誕生日。
 居候の身である琴子の誕生日を盛大に祝ってくれた入江家なら直樹の誕生日も例外なく盛大に行われるのだろうと思っていた琴子は2人でお留守番と言われ大層驚いた。
 
 
 「じゃあ、明日とか、日を改めてお休みの日にお祝い・・・」

 
 「しないわよ。」とニッコリ返されて琴子は「えぇ?!」っと叫んだと同時に開けっ放しのコーヒーの容器を振り回してパラパラとコーヒー豆が四方八方と転がっていく。
 そこそこ良い値段の上質な豆をまき散らして琴子は慌てて拾い集めた。
 

 「どうしてしないんですか?入江くんの誕生日ですよ?!」


 ここのお家の大事な大事なご長男さんですよっ!
 と言いかけたところで紀子がだってと口を少しだけ尖らせた。


 「お兄ちゃんってばちっとも嬉しそうじゃないんですもの。一生懸命用意してもそんな反応されると楽しくもなんともないわ。」

 「でもケーキくらいは・・・。」

 「お兄ちゃん甘い物苦手だから。」

 「そんな・・・」


 確かに直樹がテーブルのお誕生日席に座り、ニコニコを嬉しそうに笑っている姿はこれっぽっちも想像できない。むしろお祝いされて眉間に皺をくっきり寄せている方が想像出来る。
 でもケーキもないなんてせっかくのお誕生日なのにちょっと寂しいのではないかと琴子は思う。
 それに琴子の誕生日の時には急遽決まったとはいえとても盛大に祝ってくれたのだ。
 居候の身としてなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。


 「大丈夫よ。お兄ちゃんもそれで納得しているし、お兄ちゃんからそう言ってきたのよ?誕生日会なんていらないって。男の子ってホント冷めちゃっててお祝いのし甲斐がないんだから。」


 そう言いながら紀子は出来上がった朝食をダイニングへと運んでいく。
 その先には直樹や裕樹、そして重樹も座っていて作りたてのご飯に手を伸ばしていた。
 その光景はいつもと変わらない日常の光景だ。

 琴子は何となく寂しい気持ちになりながら淹れたばかりのコーヒーを手にみんなのいるダイニングへ歩いていった。


 

 行ってらっしゃい、気をつけてね。
 と笑顔の紀子に見送られ、先を歩いている直樹を追いかける。
 いつもと変わらない直樹の後ろ姿。
 朝、リビングに下りてきた直樹に紀子や重樹、裕樹達は「お誕生日おめでとう」とお祝いの言葉を掛けると直樹は「ありがとう」と御礼の言葉を返していた。
 そのやりとりは朝の挨拶のようなテンションで毎日のやりとりであるかのように過ぎていったのをぼんやりと思い出す。
 
 誕生日、『私』という命がこの世に生まれた日。
 赤ちゃんの時のように目に見えて成長をしていき「大きくなったね」とお祝いされるわけではないし、もう誕生日だからってお祝いされるような歳ではないわ、とかわすほど歳を重ねていない。年齢からすれば歳を重ねる事が嬉しいと思える年齢なはず。
 誕生日は誕生日。
 もっと喜びお祝いされても良いのではないか、と琴子は思う。


 「入江くん。」


 直樹は後ろから追いかけてきた琴子に目線だけ送って歩き出す。
 「学校に着くまで離れて歩けよな。」
 そう忠告して琴子が守ったのは少しの期間だけ。
 何度言っても一緒に登校する琴子に直樹はもう何も言わない。

 
 「特別な日なのにお留守番になってちょっと寂しいね。」


 学校まであともう少しというところで琴子が直樹に話しかける。さっきまでたわいない話はしてきていたけど琴子はずっと言いたかった。


 「別に。むしろ静かに過ごせておれは有り難いね。」

 
 予想通り、直樹の反応は素っ気ないもの。


 「またまたそんな風にー。そうだ!あたし今日の帰りにケーキ買ってくるね!あたしの誕生日の時わざわざ取りに行ってくれたし、今度はあたしがお返しするよ。」

 「甘い物は苦手だって言ってるだろ。」

 「でも・・・せっかくだし少しくらいは・・・。」

 「・・・要らないっていってるだろっ」


 歩を緩めた直樹と目が合う。
 琴子は直樹の表情を見た瞬間言いたいことが吹っ飛んでしまった。


 「いりえ・・・」

 「おれはおまえ達みたいに誕生日だからって浮かれるほど暇じゃないんだ。おれは祝われることなんて望んでねぇって言ってるだろ。おまえの価値観をおれに押しつけるな。迷惑だ。」


 もうおれに話しかけるな。

 そう言うと直樹は歩を進め、校門へと入っていく。
 誕生日なのになんて目をしているのだろう。
 さっきの直樹の目はあの時と同じよう目をしていた。
 一生懸命気持ちをこめて書いたラブレターを拒んだ時と同じ目。
 琴子はその目をした直樹の姿を見ているだけで精一杯だった。


 「おはよう、琴子ちゃん。」


 校門へ吸い込まれていく生徒の流れを乱すように立ちつくしている琴子の肩を軽く叩かれる。
 弾かれるように琴子が振り向くとそこには困ったように笑っている渡辺がいた。







 今日は平和だったな。と思わず呟いてしまうほど今日1日驚く程静かに過ぎていった。
 朝、誕生日だからと騒いでいた琴子が大人しい。
 いつも用もなくA組の教室を覗きに来るのに全く来なかったのだ。
 登校時に少しばかりきつく当たってしまったが、直樹にとってそれはいつもと変わらないものと認識していてそれが原因で琴子がA組の教室に来なかったとは欠片も思っていない。
 
 
 「入江、ありがとな。助かった。」


 向かいに座っている渡辺が筆記用具を片付けながら礼を述べると直樹は「構わない。」と開いていた洋書を閉じた。今、2人は図書室にいて、直樹が渡辺に勉強を教えている。 


 「今日は誕生日だろ、そんな日におれの勉強に付き合わせて悪いなって思ってさ。」

 「なんだ、おまえまで。」

 
 クスリと笑う渡辺に対して直樹は眉間に皺を寄せ不服そうだ。
 渡辺は「おまえまでって誰かに言われたの?」と更に笑みを深める。


 「今朝、琴子ちゃんに会ったけど、すごーく泣きそうな顔してたよ。琴子ちゃんが誕生日ケーキ用意したいって言ったの断ったんだってね。」


 既に事情を把握している渡辺を見て直樹は驚いた。そして「琴子の奴・・・」とごちる。
 渡辺はすかさず「おれが無理矢理聞き出したんだから琴子ちゃんを叱らないであげてよね。」とフォローを入れる。抜かりなく抑えることが出来るのは直樹との関係が長い渡辺だからこその業。

 
 「・・・おれは一度としてあいつに頼んだことはないし望んでもいない。」

 「まぁ、確かに?18になった男が誕生日だからって女子みたいにきゃぴきゃぴ喜びはしないしおれもそこまで祝って貰いたいとは思わないけど。でも、そういう風に思ってくれる気持ちは嬉しいと思うよ。」

 「じゃあ、おれの意思は尊重されないというのか。誕生日だから祝わなきゃいけないなんて誰が決めたんだ。拒否する権利だってあるはずだ。」

 
 ぴしゃりと畳む直樹に渡辺がまあまあと宥める。


 「本当に、そう思ってる?入江の中に嬉しいって気持ちは欠片も存在していない?」

 「・・・」


 そう言われると返答に困る様な気がする。欠片もないと断言出来ないのだ。ぐっと直樹が黙り込むと渡辺は「でしょ?」と笑った。


 「もう少し素直になってもバチは当たらないよ。そういう気持ちまで拒否すると将来痛い目見るよ?今日、琴子ちゃんと2人で留守番なんだろ?琴子ちゃん、待ってるんじゃないの?」

 「おまえ、何でも知ってるのな。」

 「いつも把握してる訳じゃないよ。そこは誤解しないでね。」


 2人で図書室にある時計を確認すると17時を指そうとしていた。
 11月の日の入りは早く、太陽はもう既に沈んでいて少し薄暗い。
 家に着く頃には夜に近い程暗くなっているに違いない。


 「勉強教えて貰ったおれが言うのもあれだけど、早く帰ろうぜ。どんな理由でも女の子が夜1人でいるのは物騒だし。」

 「・・・あぁ。」


 じゃあまた明日。

 そう言って2人は別れた。





  

 予想通り、家に着く頃には真っ暗になっていて家の明かりは1階のリビングだけ点いていた。
 琴子はリビングにいるらしい。
 直樹は滅多に使うことのない家の鍵を取り出すとガチャリと鍵を開け、リビングに向かう。
 そしてドアを開けた瞬間に無意識に眉間の皺を寄せることになった。

 漂う空気が砂糖に浸食されている。
 いや、砂糖だけじゃなく苦みも加えられている。しかも相当な量が。
 直樹はリビングのソファにカバンを放り投げると、その匂いの根源であるキッチンに向かった。


 「おい、何やってるんだ。」

 「うわぁ!!」


 シンクの前でしゃがみ込んでいる小さく丸い背中に声を掛けると漫画のようにビクッと肩が揺れた。
 何かマズイ事をしでかしてバレたような。
 というか、まさしくそういう状況なのだろう。


 「い、入江くん。お、おかえりなさい。早いお帰りだね。」

 「は?早いってもう6時近いぜ?」


 直樹が言うと琴子は時計を確認して「ホントだ!!」と驚いていた。
 時間を忘れる程に集中していたということが分かる。
 何をしていたんだよ。とは敢えて聞かない。
 シンクの中には使い終わったボウルやヘラが入っていて、キッチンの調理台の上には小麦粉やバター、ぐちゃぐちゃに砕かれた玉子の殻が散乱している。
 そして失敗したであろうしぼんだケーキスポンジ。
 直樹はそのケーキスポンジの真ん中を指で突いてみることにした。


 「うわっ!かってーなコレ!!」

 
 勢いよく突いたら完全突き指で負傷するに違いない。
 指の節で小突くとコンコンッといい音が返ってくる。


 「流石、マドレーヌをクッキーにするだけのことはあるな。」

 「・・・返す言葉もありませんです。」


 しょんぼりと肩を落とす琴子に予想はついてたけどな、と溜め息をこぼすとぐるりと周りを見渡した。


 「そういえば裕樹は?あいついないのか?」

 「あ、うん。裕樹くんもおばさんと一緒に行っちゃったの。裕樹くんは家に居たがってたけど、おばさんが半ば強引に。あたしだけだったら心配かもしれないけど入江くんもいるんだから裕樹くんもお家にいても大丈夫だったのに」

 
 なんでだろうね?と不思議そうに首を傾げる琴子に直樹はグッと眉間を寄せた。
 まさか・・・というか、今日は取引先との外食なんて嘘なんだろう。
 大体、そんな大切な接待に子供を同行させるはずがない。
 ということは、これは紀子に仕組まれていたということになる。

 ダイニングテーブルには直樹と琴子の夕食がしっかりと用意されていて、そのメニューは直樹が好きなものが並んでいる。そしていつもの夕食よりも少しだけ豪華だ。
 それを確認してやられた・・・。と呟くと、踞っている琴子がきょとっと首を傾げた。


 「入江くん?」

 「・・・なんでもない。それより飯食おうぜ。腹減ってるんだ。」


 きっと暫くの間、誰も帰ってこないだろう。
 直樹は踞っている琴子を引っ張り上げると料理が並んだダイニングテーブルへと向かった。
 


 

 おいしいね♪
 と終始嬉しそうに食べる琴子と食事を済ませ、空になった食器をシンクへと運びスポンジを手に取る。
 そこで直樹は調理台に置いてあるあるものと目が合った。

 
 「琴子。」

 「んー?」

 「あれ、なんだ?」


 あれ、と視線で促すと琴子は「あ!忘れてた!」とそれを手に取った。


 「これ、さっきケーキに使うはずだった生クリームだよ。」


 生クリーム、甘い代表と呼ばれるものの名前を聞いて直樹は思わず眉間に皺を寄せた。
 反対に琴子はボウルの中のクリームを人差し指で掬いパクリと口に入れ、あ、美味しい!と叫んだ。


 「おまえ、今初めて味見したんじゃないだろうな。」

 「え?なんで?」

 「なんでって、そういうものは甘さを調節していくものじゃないのか?」

 「んー、でも箱に書いてあるとおりの分量入れたんだから味に失敗はないよー?」


 といいながら琴子はもう一度人差し指でクリームを掬い上げ直樹の前に差し出した。


 「は?!」

 「はい、味見!入江くんも食べてみて?」

 
 直樹はこれでもかと目を瞠って硬直した。
 
 
 「あほかおまえ!普通味見させるんだったらスプーンに掬うだろ!おれにおまえの指を口に入れろって言うのかよ!!」


 手に泡が付いていなかったら、速攻ゲンコツも落ちていただろう。ここはスポンジの泡達に感謝しなければ。
 直樹に指摘されるまで気付かなかった琴子は指摘されて初めて自分のしていることに気付き、一気に顔を朱くした。

 
 「あっ!!ご、ごごごごごめんなさっ!!///」

 「もういいから寄こせ!床に落ちる!」


 琴子の体温で温まったクリームが柔らかくなり今にも落ちそうになっているのを直樹は口で受け止めた。

 甘いクリームの味と、細い琴子の指の感触。

 口の中でクリームをなめ取る舌が琴子の指までも一緒に吸い上げてしまうのは仕方のないことだ。
 直樹はゆっくりと琴子の指を解放すると真っ赤な顔をした琴子に視線を送った。


 「ほら、指洗えよ。」

 「あ、うん///」

 
 咄嗟のこととはいえ今自分が何をしてしまったんだと思い返し、至極冷静を努めてさっきからずっと流れ続けている蛇口を指をさして促し、直樹はシンクの食器を洗い始めた。
 隣で耳まで真っ赤にしている琴子を横目で見ながら直樹は次々と食器を洗い上げていく。
 黙々と手を洗っている琴子。身長差もあって上から見下ろしている角度からは表情は見えないがひどく動揺していることは手に取るように分かる。
 まぁ、これが計算でなく天然の行動だからこその琴子だから。


 「そのクリームどうするつもりだ?」

 「へ?」

 
 洗い物を済ませ、タオルで手を拭きながらいつまでも固まっている琴子に声を掛ける。
 琴子の言うとおり、生クリームの味に問題はなかった。甘さも丁度良かった。
 折角上手に作れたのに捨ててしまうのは勿体ない。無言で居る琴子から手に取るようにそれらが伝わってくる。
 

 「それ、冷蔵庫に入れといてくれ。あとこれから風呂入ってくるからその間コーヒー淹れといてくれるか?」

 「え?」


 琴子に聞いておいて答えを待たず直樹は琴子に指示をしてさっさと浴室へと向かう。
 未だドキドキが止まらない琴子は目の前の生クリームと直樹を見つめたままその場に立ちつくすことが精一杯だった。



 直樹と入れ替わりで琴子がお風呂を済ませてリビングの戻ると直樹がキッチンに立っていた。
 きっとさっき淹れておいたコーヒーの準備をしているのだろう。琴子は慌ててキッチンに入った。


 「入江くん、コーヒーはあたしが淹れるから入江くんはソファに座ってて。」

 「もう終わるからいい。」


 そういうと直樹は冷蔵庫から琴子が作った生クリームを取りだした。
 直樹はその生クリームをヘラですくい取ると絞り袋に丁寧に入れ、手慣れた手つきで空気を抜く。
 そして、目の前にあるブラックコーヒーとカフェオレの上にその生クリームを絞り淹れた。
 

 「うわぁ~。」

 
 カップの外側から中心へ綺麗な円を描きながら星形のクリームがコーヒーの上を覆っていく。 
 その手つきはとても滑らかで甘い物が苦手だなんて思えない。もう何度もお菓子作りをしているかのような手つき。
 凄いね!凄いね!!と、とても嬉しそうにそれを見ていた琴子に直樹は琴子の分のカフェオレを差し出した。


 「ほら。生クリームが溶ける前に早く飲めよ。」

 「ありがとう!でもちょっと待って。」

 
 琴子はカフェオレを受け取り、テーブルに置き直すと冷蔵庫から小さな小瓶を取りだした。
 

 「せっかく入江くんの誕生日だからもう少しデコレーションしよ?」

 「おいっ」
 
 
 琴子が乗せたのは紀子が製菓用にストックしてあったチョコレートスプレーだ。
 カラフルな小さなチョコレートが真っ白なクリームの上を彩る。
 入江くんには大サービス♪と多めにかけると直樹はカップを取り上げた。


 「入れすぎだ馬鹿!」

 「ええ?こんなの入れたって味変わらないって~。」

 「おれには大きな変化だ!!」


 直樹は今度こそ盛大なデコピンを琴子に落とすと、ったく!と言い残しソファへ座った。 
 漆黒が生クリームで見慣れない色に変わっていく。
 それを口に含むといつもよりまろやかな味が口に広がった。砂糖は一切入っていないがクリームの糖分でいつもよりは甘い。
 琴子は直樹の正面に座り、スプーンでクリームを頬ばりながらおいしー!と叫んでいる。
 その顔はとても幸せそうで頬が緩みまくっている。この光景をみているとどっちが誕生日なのか分からない。
 コクリと大事そうに琴子がカフェオレを飲むと上唇にくっきりとクリームをつけているお約束パターンに直樹は「ぶはっ」っと吹きだした。


 「な、なに?!」

 「・・・おまえ・・・自分の顔鏡で見てみろ。酒飲みのオッサンか。」


 はずさないな、おまえは。
 直樹はそう呟きながら琴子の口に付いたクリームをティッシュで拭う。
 琴子は、真っ赤になりながらありがとう、と呟くと続けて「ごめんなさい。」と続けた。

 
 「まぁ、おまえがおれに謝らなきゃいけないことは過去に数多くあるが、今日は一体何をやらかしたんだ?」

 「え?えっと・・・怒ってないの?」

 「何を。」

 「・・・いろいろ迷惑かけちゃったこと・・・。」


 そう言われて、あぁ。と返す。
 確かに琴子は誕生日だから、と直樹に付きまとっていた。朝は思わず怒ってしまったがそれをいつまでも引きずるほど狭い心を持っているつもりはない。渡辺にも笑いながら釘を刺された。
 

 「おまえは謝るようなことしてないだろ。」

 「そんなことないよ。あたし朝から入江くんに嫌な思いさせちゃって。でも、あたし入江くんにケーキでお祝いしたかったの。」

 「おまえのお陰で、これも飲めたし。おれにはこれくらいで十分。ケーキなんて甘い物はゴメンだ。」

 
 スポンジにまんべんなく塗られた真っ白なクリーム。その上にはカラフルなフルーツ。
 砂糖の塊とも言えるデコレーションケーキを想像するだけで喉が焼けそうになる。

 
 「ありがとな、琴子。」

 「そんなの・・・入江くんのお陰でこんな美味しいカフェオレ飲めたからあたしの方こそ御礼言わなきゃ。入江くんが居なかったら生クリームも捨てちゃうところだったし。それに・・・ホッとした。」

 「ホッとした?」

 「朝ね、おばさんが入江くんの誕生日のお祝いしないって聞いて凄く悲しい気持ちになっちゃって。でもおばさんはちゃんとお祝いしてくれてた。今日の夕飯、入江くんの大好きなメニューだったもん。ちゃんとお祝いしてくれたんだって思ったら良かったって思って。」

 「・・・おまえって・・・ ・・・相変わらずそういうところは・・・。凄いよ、おまえ。」


 柄にもない言葉を口にするのは恥ずかしい。
 けれどそれがばれたくなくて冷静を努めてコーヒーを啜った。
 正面には不思議そうな顔をした後、嬉しそうな顔を浮かべている琴子が居る。

 その顔を見ると心がザワザワと騒ぎはじめてどう対処して良いか分からなくなってしまう。
 これは一体なんなのか。
 どうして琴子を見るとこんな風になってしまうのか。
 でもそれは意外と嫌なものではなくて少しだけ心地良い。
 だからこそ対処に困る厄介なもの。


 「入江くん、改めてお誕生日おめでとう。」


 照れた表情がこめられた満面の笑みに直樹の心は更にざわつき始めた。


 「サンキュ。」


 それと同時に直樹の眉間の皺が消えた。






 この気持ち。



 これは特別な感情というものなのか

 直樹の中ではそこまで行き着いていない。

 それを知るのは、もう少し先のこと―――――――。


 これは『初恋』と呼ぶものか。


 《END》




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 私的には少し長めのお話になりましたが大事な入江くんの誕生日なので(^_^)
 


  今回のお話は base ball bear さんの『初恋』という曲を聴きながら創作しました。
  この曲を知ってる方は「あ、コイツまたやりたがったなっ」って絶対突っ込んできそうですが、それはまだ後日お話しするとして・・・(^_^;) 
 
 実は最初『苦難の中の力』を創作するきっかけになったのですが予想外にもキャラが暴走してしまい書きたかったお話から大幅にずれてしまったので『苦難の~』はそれはそれで完成させて改めて『これは~』を書き始めました。
 で、いろいろ考えていたら『初恋』という曲から今回更新したものと併せて2つ創作する事が出来ました。


 とはいってもスムーズに進むわけもなく、お話を書いていて行き詰まる度に如何に自分が無知で言葉センスがないかというのを思い知らされました。
 特に最近はまともに創作していなかったので書き方を忘れてしまって書きたいのにどう書いて良いか分からないという壁にぶち当たりPCの前で私がフリーズしてました(^_^;)
 
 琴子ちゃんの誕生日は見事にスルーするという大失態を犯してしまったのでこうやって入江くんの誕生日に更新できてホッとしています。
 この調子で結婚記念日も更新できたらいいなと思います。

 
    
  
 

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re:たまちさま。

こんにちは☆

コメントありがとうございます♪

母の策略はとどまるところを知りません!!
そして裕樹くんはいつも連れ去られるというお兄ちゃん大好きッ子にはとんだとばっちりです(^_^;)
無自覚シリーズなのにちょっと甘い雰囲気になってしまったのはもう私の脳みその無自覚基準が大分ずれてしまってるんでしょうね(^_^;)もう少し軌道修正しなければ・・・と反省です。
それでもこのお話の一番の抑え所をキッチリと掴んでくださって私は大満足です♪
ナンダカンダ言っても!琴子ちゃんは特別な女の子ですから♪無自覚だろうが自覚していようがそんなのどうでも良いのかも(コラ。)
曲も聴いてくださってありがとうございます!
その最後のフレーズは堪りませんよね(≧▽≦)この曲は本当に大好きすぎます!
余談ですが、この曲を聴きながら創作したせいか渡辺くんの台詞を書いているとき小牧教官が乗り移った気がしないでもないです(笑)ビバっ「笑う正論!」
プロフィール

narack

Author:narack
☆いらっしゃいませ☆
 こちらは「イタズラなkiss」の二次創作と管理人の好きな物etcをつぶやくblogです。

 イタズラなkissに関しましては管理人の勝手な想像、妄想によるものですので二次世界が苦手な方はご遠慮ください。
 また、作者様、出版社様、その他関係者様とは一切関係ありません。

 管理人の創作で少しでも笑顔になれたら嬉しいです。
 皆様がHAPPYになりますように。

最新記事
最新コメント
カテゴリ
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
カウンター
現在のお客様
現在の閲覧者数:
☆リンク☆
Swinging Heart (ぴくもん様)
こんぺい糖と医学書 (千夜夢様)
*初恋* (miyaco様)
雪月野原~snowmoon~ゆづきのはら (ソウ様)
Embrasse-moi (えま様)
みぎての法則 (嘉村のと様)
真の欲深は世界を救う (美和様)
日々草子 (水玉様)
むじかくのブログ (むじかく様)
みんなのイタKISSブログ (ルン様)
Snow Blossom (ののの様)
『ハピ☆スマ』バナー
相互リンクはイタズラなKissの二次創作サイト様のみ受け付けております。 その他のサイト様とのリンクは受け付けておりませんのでご了承ください。 ☆イタキス創作家様へ☆ お持ち帰りの際は、ご連絡をお願いします。
☆新しくバナーを追加しました♪リンクされている方はお好きな方をお選びください☆
このブログをリンクに追加する
月別アーカイブ
最近のハマりもの♪
なんだか気になって仕方がない 『うたプリ♪』 ※曲が流れます♪        
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。